右手で持っても左手で持っても、可愛いアザラシと目が合うこのマグ。
いったい誰が別注したマグなのか、マグの裏面に書かれた”Suomen luonnonsuojeluliitto”という団体について見ていきましょう。
Suomen luonnonsuojeluliittoって?
Suomen luonnonsuojeluliittoとは、フィンランド自然保護協会のこと。
単語を分解して見ていくと、suomen(フィンランドの)luonnon(自然の)suojelu(保護)liitto(協会)と、なるほどそのまんまです。
1938年に設立されたフィンランド自然保護協会は、フィンランドの環境保全・自然保護に取り組む非政府組織としては最大のもの。主な取り組みは以下のとおりです。
- 森林の保護:環境立法準備、森林保全活動への関与。皆伐への反対運動を行い、より持続可能な森林管理の推進を目指す。
- 泥炭地の保護:泥炭(ピート)採掘を終わらせ、残された泥炭地を自然のままの状態で保全することを目指す。
- 水環境・水資源の保護:バルト海の環境保護、安全・健全な淡水資源の維持。
「森と湖の国」と称されるフィンランドには18万8000個の湖があり、
貴重な淡水資源を蓄えています。
- 気候変動に対するアクション:2029年以降の石炭火力発電廃止、世界平均気温の上昇を+1.5℃に抑える。
- サイマーワモンアザラシの保護:個体数わずか400頭程度(2019)。漁網による溺死を減らすため、漁業規制を実施。学校・地域への啓発活動も行う。
- 自然資源管理:外来種根絶プロジェクトの指揮。VieKas LIFE (Finvasive LIFE, 2018–2023)
- 鉱山活動:現在の鉱業法における環境改善。
フィンランドは、欧州でも有数の鉱山国。最近では、欧州最大規模のリチウム鉱床も確認されているほか、フィンランド南西部では、レアアースの探鉱プロジェクトが進行しています。
- 土地利用の問題と絶滅危惧種
- 立法準備への関与
- 国際協力
これらの取り組みのうち、フィンランド独自ともいえるのが「サイマーワモンアザラシの保護」ではないでしょうか。
というのは、サイマーワモンアザラシは、フィンランドのサイマー湖にしか生息しない固有種だから。
半世紀以上に渡って保護されており、個体数は最低時より回復してはいるももの、未だ楽観視できる状況ではありません。
このマグを深ボリ!
マグに描かれているのが、そのサイマーワモンアザラシ。
デザイナーはSeppo Leinosen。
フィンランド自然保護協会は、サイマーワモンアザラシを協会のマスコットとしています。
実はこのマグのアザラシは、二代目のマスコットアザラシ:2007~です。
一代目は、Erik Bruun(エリック・ブルーン)によって描かれたアザラシでした。
Bruunの代表作、アザラシのポスターをご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
Seppo Leinosenさんは、ご自身のブログsepponetで
環境問題についてのイラストを描かれています。
サイマーワモンアザラシってどんなアザラシ?
サイマーワモンアザラシが住むサイマー湖は、隣国ロシアとの国境にほど近い、フィンランド南東部にあります。
本来、海の生き物であるはずのアザラシが、なぜ湖に住んでいるのか不思議に思いますよね。
これには、最終氷期終焉にともなう地殻変動が関係しています。
最終氷期とは、約70,000年前に始まり、約10,000年前に終了した一番新しい氷期です。
ボスニア湾地域を中心に発達したスカンジナビア氷床は、フィンランドをすっぽり覆っていました。
約20,000年前の最寒期には、南はポーランドまで氷床が到達。フィンランドでの氷床の厚さは、なんと2kmもあったとのこと。
最寒期を過ぎると気温は上昇し、氷床の融解が始まります。氷床という重しから解放された大陸の部分は隆起し始め、現在のフィンランドを形作っていきます。
サイマー湖は、現在の形に形成されていく過程で海と分離していきました。
このムービーがとても面白かったのでシェアしますね。10,000年前を過ぎたあたりから、フィンランドがじわじわ現れてくる様子は必見。現代のフィンランドの多くが、かつての海底または群島だったことがよくわかります。
約8,000年前に陸封された生物たちは、サイマー湖の環境に合わせて進化していきます。
たとえば、サイマーワモンアザラシの大きな目や敏感な太いひげは、透明度が低く複雑な地形のサイマー湖で生き延びるために進化したもの。地形や獲物の動きを探知することができます。
脳も近縁種より大きく、犬と同じ程度の知能があるとか。
サイマーワモンアザラシのリング状の模様=ワモン(輪紋)は
人間にとっての指紋と同じで、みんな違うんだよ!
赤ちゃんのときはライトグレーでふわふわの体毛。ワモンはまだないんだ。
サイマーワモンアザラシのアイコンは、
フィンランド政府環境局の絵文字からダウンロードしました!
なぜ絶滅の危機に瀕しているの?
19世紀の終わり、サイマーワモンアザラシは漁業の敵とみなされ、1948年まで捕獲報奨金が支払われていました。1955年から保護活動が始まるものの、1960年代に登場したナイロン製の漁網が、生存数の減少に追い打ちをかけます。赤ちゃんアザラシの半分以上が、成体になる前に命を落としました。
1980年初頭、サイマーワモンアザラシの個体数は200頭にも満たなかったとのこと。
その後の保護活動により頭数は増加傾向にありますが、以下4つの要因が、サイマーワモンアザラシの存続を脅かしています。
- 漁具:沈めてある漁網にかかり溺死してしまうケース。混獲が最大の脅威となっています。漁猟時期を制限したり、アザラシにやさしい漁法の開発が進められています。
- 気候変動(地球温暖化):サイマーワモンアザラシは、湖岸線沿いにできる雪の吹きだまりを巣穴に使います。暖冬時には、ボランティアによって人工の雪山が作られました。気候変動により、サイマーエリアの降雪量は年々少なくなってきています。
- 人間による妨害(騒音など):とくに12~4月の営巣期間は、子育てに専念できる静寂な環境が必要です。スノーモービルの音、サマーコテージの通年利用も、アザラシにとっては不安要素となります。
- 遺伝的変異の減少:
そもそも個体数が非常に少ないうえに、小さな群れが広大なサイマー湖に散在している状況。繁殖可能なメスが、1つの群れに数頭しかいない場合もあるとか。近親交配が続けば遺伝的変異が起こりにくく、環境の変化に対応して生き残ることが困難となります。
日本に住む私たちができること
サイマーワモンアザラシについて関心をもつこと・知ること
赤ちゃんアザラシVeetiの一年間を、Veetiの視点で描いた絵本。
“Veeti the Seal’s Pup Year” Kaarina Tiainen
また、この記事の最下部に参考文献も掲載しているのでご覧ください。
動くサイマーワモンアザラシを見たい方には、Norppaliveがおすすめ!
サイマーワモンアザラシは大半を水中で過ごしますが、換毛期の5月になると岩場に上がって過ごすことが増えます。
その可愛い様子を見られるのが、WWF Finlandが提供するアザラシ中継ことNorppalive(ノルッパライブ)。オフシーズン時は、録画されたムービーを見ることができます。
5月のサイマーエリアは、日没が21~22時台なんだ!
ぼくの姿が暗くて見えないってことはないから、ノルッパライブにアクセスしてみてね。日本との時差は-6時間(サマータイム)だよ。
寄付や関連商品の購入によるサポート
フィンランド自然保護協会は、サイマーワモンアザラシ保護のための寄付金を受け付けています。
また、協会ウェブショップでの売り上げは環境保護活動費に充てられるそうです。今回紹介したマグや、そのほかにも可愛いアザラシグッズがたくさんありますよ。
ちなみにグッズの一部は、フィンランドの大手チェーン書店Suomalainenkirjakauppa(スオマライネンキルヤカウッパ)でも取り扱いがあります。
ヘルシンキ中心部だと、Kamppiショッピングセンター内、ヘルシンキ大聖堂前の通りAleksanterinkatuにSuomalainenkirjakauppaの店舗があるので、気になる方はぜひ。
環境問題に取り組む企業の商品を選択する、という方法もあります。
たとえば、フィンランドの塗料メーカーTikkuliraが発表した、Endangered Colors collectionというペンキシリーズ。9種の色は、絶滅危惧種に指定された動物をそれぞれ象徴しており、サイマーワモンアザラシのグレーという色もラインナップされています。
容器には再生プラスチックを使用。同社は、ペンキが1つ売れるごとに1ユーロを、絶滅危惧種の保護活動のために寄付するとのことです。
日本では現時点で販売されていないようですが、個人的にはとても興味がある商品です。
プロダクトムービーもぜひご覧ください。
そして、気候変動のスピードを緩めるための行動をとること
エアコンの設定温度の見直し、水の節約、公共交通機関の利用など、いろんな取り組み方があると思います。私たちの選択で、未来をつないでいきたいですね。
【参考文献】
・Suomen luonnonsuojeluliitto, saimaa ringed seal, https://www.sll.fi/mita-me-teemme/saimaannorppa/saimaa-ringed-seal/
・Towards Sustainable Coexistence of Seals and Humans (CoExist), https://www.sll.fi/mita-me-teemme/saimaannorppa/coexist/
・Metsähallitus, The endangered. Saimaa ringed sealhttps://julkaisut.metsa.fi/assets/pdf/lp/Esitteet/endangered-saimaaringedseal.pdf
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構, 世界の鉱業の趨勢2020フィンランド, http://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2020/12/trend2020_fi.pdf
・Climate-ADAPT, Creation of man-made snowdrifts for improving the breeding success of the Saimaa ringed seal,https://climate-adapt.eea.europa.eu/metadata/case-studies/creation-of-man-made-snowdrifts-for-improving-the-breeding-success-of-the-saimaa-ringed-seal
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